総合医療学講座

幅広い診療能力を有する総合医の育成及び大学病院と地域医療機関との連携形態(地域医療の充実)の確立を目的として

綜合医療講座ブログ

10月 2013

野宗教授 ~いわき市福島原発被災者甲状腺エコーの検診報告 2013/9/14~

以前から、ヒロシマ、チェルノブイリ原発事故またセミパラチンスク核実験場での被曝者検診支援を行ってきた関係で、昨年からいわき市の放射線測定室と言うNPOから、福島原発事故の被害者救援活動を依頼され、甲状腺検診や放射能被曝の講演を行っている。

フクシマ原発事故以来、福島で多くの子供さんは屋外活動を禁止されており、気の毒に思った多くの人々の誠意で基金を募って、福島の子供達を久米島に招いている。その子供達やお母さんたちの甲状腺検診の希望を叶えてあげるため、昨年まで沖縄県久米島に出向いて福島の子供達の甲状腺エコー検診を行ってきた。久米島での検診は、今年の3月いっぱいで久米島町立病院の村田院長先生の退官が決まり、院長のご好意で使用させてもらっていた甲状腺の検診で使用する超音波装置が使えなくなったので、今年3月で終了した。

今後いわき市でも甲状腺超音波検診が出来るよう、いわきのNPO(いわきたらちねの会)で最新の機器を購入された。それにより、いわき市での甲状腺検診は今年の3月から開始され、私も毎月1回、週末を利用して甲状腺検診に従事している。1回の検診で約60~80名の甲状腺検診を2日間かけて行っている。

この度は、平成25年9月14日、15日の2日間甲状腺検診を行ってきた。今回は、核被爆医療に興味を抱く医学部4年生の佐々木弥生さんの実習も兼ねていわき市に向かった。私は広島から始発の新幹線で、佐々木さんは出雲から空路東京へ移動し、東京駅で合流。東京駅から郡山まで、行楽シーズンのため満席の東北新幹線で、立ちっぱなしで移動した。郡山駅で南東北病院を訪問し、副院長先生を訪ね、いわきでの甲状腺二次検査の依頼をするためであった。我々以外、福島原発事故の住民健康被害に関心の深いNKHディレクターも同行された。広島から新幹線を乗り継ぎ、いわき市まで到達するまで片道約6時間の日程である。

 福島原発事故以来、2年半経過しているにもかかわらず、低汚染地区であるいわき市の子供達の甲状腺検診は未実施の状態である。我々は保護者の方の不安を解消するため、また福島県立医大の甲状腺検診のお手伝いを兼ねて、NPO(いわきたらちねの会)主催の学童の甲状腺エコー検診を行ってきたのである。

 この度の甲状腺検診は、9月14日、いわき市の保育園に出向き、ポータブルのエコー(GE社製)を用いて40数名の園児および学童の甲状腺検診を行った。

翌15日早朝、我々はNPOのご厚意により富岡町(福島第一原発より10km圏内で警戒区域であったが、本年4月より日中の出入りが自由になる「避難指示解除準備地域」に出向き、放射線測定器で汚染状況を調べた。富岡町は海に面した街であり、そこから原発までは数km以内という近距離である。そして富岡町は2年半前の津波の被害のまま、街全体が廃墟の状態であった。住民の人影や走行する車両も全く無いのに、驚いた事に道路の信号は正常通り作動している。そしてかっての町内のメイン通りを、大きな野生の猪が7~8頭群れをなし、我が物顔でえさを求めて歩いており、我々の車が近づいても一向に動こうとしないのであった。

2年半前の東北大震災で破壊され、未だに原発事故で放射線汚染のため撤去作業が出来ていない廃墟の街中を抜けて、JR富岡駅に向かい、放射能測定を行った。測定機の表示は3μsv/hであった。いわき市内の放射線レベルである0.07μsv/hに比べると、ここは約50倍の放射線数値である。この地区は現在も汚染地区として被災家屋の撤去は許可されておらず、事故当時のままであった。この地区が再び住人の生活地区となるのは、まだまだずいぶん先であろうと思われた。

その後、いわき市のNPOいわき・たらちねの会本部で28名の学童を対象にエコー(日立製Avius)検査を行った。この日は保護者数名も検診を希望され、成人の甲状腺エコー検診の一次スクリーニングを佐々木さんに行ってもらった。幸い、保護者ならびに学童には悪性所見を思わせる甲状腺の変化はなかった。

現時点でのいわき市での検診人数は、今年3月からの合計で約2000人(成人が約400人、小児が1600人)。このうち成人3名と18歳以下の学童1名に対し二次検査を行った。この学童は15歳で甲状腺の悪性腫瘍と診断され、外科的治療を行っている。(我々の甲状腺検診基準は福島県立医大の判定基準をそのまま採用している)

現在も福島第一原発での汚染は持続しており、今後も低濃度汚染による健康被害も否定出来ず、また住民の健康被害への不安も存続するため、甲状腺検診エコーを継続していく必要がある。私を含め5名が検診医師として登録されており、今後もそれぞれの業務の合

間をぬって月1回程度の検診を行っていく予定である。

「福島甲状腺検診」   医学科4年生 佐々木弥生さん 

9月14-15日、大田市立病院の野宗先生に同行させていただき、福島へ甲状腺検診に行きました。

 

初日は甲状腺検診に関係する方々と郡山市にある総合南東北病院へ向かいました。この病院の医師との面会目的は、二次検診や手術などの甲状腺検診後のfollowや調査協力のお願いでした。この検診のように健康である人々を対象としたデータ(調査)はこれまでなく、得られた結果の解釈や既存のデータとの比較の難しさを知りました。また、検診で判明した甲状腺異常が本当に被爆によるものなのかという話もあり、興味深く感じる一方で東日本大震災・原発事故といった大きな出来事があったにも関わらず、自らの関心の薄さを痛感しました。その後いわき市にて甲状腺検診の見学。

 

二日目は早朝よりNPO法人“いわき放射能市民測定室たらちね”の方に富岡町(福島第一原発付近)へ連れて行っていただきました。富岡町は居住制限区域さらには帰還困難区域となっています。向かう道中、お借りした測定器の数値が上昇していくのを目にし、野性のイノシシが群れて道路をふさいでいるのに遭遇しました。閑散としており、信号機が動いていたり多数の家々(被災しているものもあり)があるにも関わらず人気がないという状況に奇妙さも感じました。その後、甲状腺検診。二日目ということもありエコーが示す画像に見慣れてきた部分はあったのですが、実際にさせていただいたことにより、異常がないかのチェック、プローブの頸部へのあて方、問診を含めた問いかけなどの難しさを実感し、医師における技術や知識・コミュニケーション能力などの重要性を再認識しました。

 

この二日間の間にいろいろなお話を伺い、報道を含めた情報発信のあり方や溢れかえっている情報の取捨選択、さらにはその解釈について考えさせられました。情報があれば汚染地域に非難することはなかったか、きちんとした情報開示や対応があれば不満や不安は生じなかったか、当事者とそうでない人々との解釈や捉え方の差が生じ得るのはなぜか、と。

また、メディアには上がっていないけれども問題となっていることが多々あるということを初めて知りました。

 

実際に自らの足を運び、そこで見聞きし感じたことは、医師となったときの仕事の幅や自らの視野を広げるよいきっかけとなりました。今回の経験を次の行動に活かしていければと思います。

 

 

 

 

最後になりましたが、野宗先生をはじめ“たらちね”の方々、総合医療学講座の皆様、この度は貴重な経験をさせていただきありがとうございました。

 

 

島根大学医学部4年

佐々木 弥生

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