総合医療学講座

幅広い診療能力を有する総合医の育成及び大学病院と地域医療機関との連携形態(地域医療の充実)の確立を目的として

綜合医療講座ブログ

3月 2013

『第5回 Vascular Lab in出雲』開催しました

平成25年3月23日「透析と血管障害」をテーマに、(Lecture 1)島根大学医学部検査部准教授 矢野彰三先生から「透析に伴う血管障害について〜基礎医学的知見」を、(Lecture 2) 続いておおつかクリニック副院長 公受伸之先生から「透析に伴う血管障害について〜臨床的知見」のお話を頂きました。いずれもご自分の研究データを提示しながらの内容で、極めて興味深いお話でした。矢野先生の、糖尿病では血管内皮機能障害と同じ時間的レベルで平滑筋での骨化現象が現れるというデータは、やはりと思うと同時にようやく明らかとなったかという感慨を感じました。公受先生は、血管の石灰化は、透析に伴う血管イベントの予測因子であるとともに、心筋傷害のマーカであるトロポニンTの増加と平行するという事実を実例交えながら提示頂きました。お二人の発表を聴講して、透析に伴う血管障害の研究は、まだ途半ばと感じるとともに、お二人の更なる発展を予感させます。
 血管検査に関して、(Lecture 3) 近畿中央病院 小林大樹先生から、透析でのブラッドアクセス評価について、超音波ハンズオンを交えて講演を頂きました。シャント血管の狭窄は避けがたい合併症であるが、狭窄病変の早期発見が閉塞機転の予防につながると教えて頂きました。小林先生は6週連続での全国講演をされているということですが、島根で小林先生のお話が聴けたのは奇跡的といってもよいでしょう。次回には、シャント造設前評価についてのお話をして頂く約束を頂きました。早速に時間調整に入ります。
 ハンズオンでは、ブラッドアクセス超音波検査、腎動脈エコー、下肢静脈エコーを約30名の聴講生が熱心に研修されていました。
 次回は、平成26年3月2日(土曜日)(ニューウェルシティ出雲)と決まりました。またご案内しますが、CVT認定講習会でもあります。どうそご参加ください。

外科 水本先生から

3月上旬、4か月もの長きにわたる入院加療の後、一人の患者が退院となった。
患者は70歳代女性、2008年10月下旬に、交通事故による多発外傷により十二指腸、横行結腸、膵・右副腎・右腎損傷、汎発性腹膜炎を受傷し県内有数の総合病院救急部に搬送され、同院消化器外科で回腸人工肛門造設・横行結腸双孔式人工肛門造設術施行される。
2012年4月ころより正中創に露出している消化管が穿孔し、皮膚廔を形成、周囲に皮膚炎を発症し、総合病院を受診するが廔孔閉鎖は困難という診断で2012年10月上旬、通院に都合の良いことから当科を紹介された。
来院時の所見では正中創から食物残渣が胃液・胆汁とともに排泄され、回腸人工肛門からはほとんど排液はみられなかった。
体重24kg、BMI 10.4とかなりの低栄養状態で1時間以上もかけてよく前医に通院していたものだとあきれはてた。
まずは、栄養状態の改善が必要と考え、中心静脈栄養管理とした。
孔から造影すると予想通り幽門部皮膚廔でこれではいくら食べても栄養補給にはならない(図 1)。
廔孔を縫合後、サンドスタチンアナログ(注1)の持続皮下注とプロトンポンプインヒビター(注2)を静注し、保存的な閉鎖を試みたが漏出が継続、次に内視鏡的に粘膜側からクリッピングして廔孔の閉鎖を試みたが、これも把持した粘膜が脆弱でうまくいかない。
通常、消化管皮膚廔は廔孔を含めた切除、再建が標準的治療なのだが、この患者のように腹膜炎後は消化管の癒着が高度で、開腹術が非常に困難である。そのような理由から、前医でも処置なしのレッテルがはられていたようである。
 
あきらめムードが漂う中、困ったときの神頼み

その1.文献を集めて考察してみると、薬剤を充填したり、内視鏡的に閉鎖したり、近くの組織を使って閉鎖したりされているが、いずれの場合も廔孔が血流の良い組織で被覆されてないとうまくいっていないことがわかった。ならば何らかの皮弁なり筋弁なりでラッピングするしかない。しかし、いくら血流の良い組織で充填しても腐食性の強い胃液と膵液にさらされて、ラッピングした組織が融解しないだろうか?
 
消化器外科的発想の限界、困ったときの神頼み

その2.友人の形成外科医に相談してみよう!
電子媒体を使って形成外科と消化器外科の知識を持ち寄ってカンファレンスを繰り返す。廔孔閉鎖面のラッピングに皮膚面を使用すること、それも単に遊離植皮をするのではなく血管茎付きの皮弁を利用することとし、かくして閉鎖術は行われた。
 
手術所見:廔孔部より隆起・反転している粘膜を切除し、新鮮化した。廔孔部粘膜全層縫合で閉鎖した(図1)。廔孔周囲のびらん・潰瘍表面を新鮮化した。廔孔右側に廔孔と周囲の潰瘍を含めたものと同様の大きさのヒンジ皮弁(注3)をデザイン、皮弁の表面をダーマトームを用いて脱上皮化し、同時に分層植皮片を採取した。作成したヒンジ皮弁を翻転し潰瘍辺縁と縫合、皮弁採取部および皮弁裏面に分層皮膚を置いた(図4)。その後、陰圧閉鎖療法用のVACシステムを装着し(注4)手術を終了した(図5)。
 
術後2か月で創部は上皮化し(図6)、退院となった。退院時の患者の体重は34kgであった。

  • 消化管ホルモンであるソマトスタチンのアナログで消化管ホルモン・成長ホルモンの分泌を抑制し、消化管ホルモン産生腫瘍(VIPoma, Gastrinoma, カルチノイド)、先端巨大症・下垂体性巨人症、癌性消化管閉塞に使用される。
  • 胃壁細胞のH+分泌の最終段階のプロトンポンプによるくみ出しを阻害して胃酸分泌を抑制する。
  • 翻転皮弁。表皮を脱上皮化することで真皮毛細血管網が露出し、接着した組織との間に血流が形成される。真皮は膠原繊維に富み、消化液の腐食に抵抗性である。
  • 創傷を陰圧閉鎖環境におくことで創傷治癒に必要なFGFなどの成長因子やサイトカインの分泌を誘導し、治癒を促す治療法で植皮・移植組織の固定、熱傷、褥瘡の治療などに用いられる。

図1.幽門部皮膚廔粘膜を縫合閉鎖したところ
図5.VAC療法
図6.廔孔が閉鎖したところ
今回の教訓:診断・治療に難准したときは真摯な態度で文献を検索し、専門医の意見を聞くこと。日頃から忌憚なく相談できる各科専門医の仲間を作っておくこと。

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